マルチドメインとは?複数サイト運用に適した仕組みとメリット・デメリット

マルチドメインとは、複数のサイト(ドメイン)を、1つのレンタルサーバーで運用できる仕組みのことです。
「自社ホームページとは別に、新サービス用のサイトを立ち上げたい」
「展開している複数の異なる事業について、サイトを分けて、それぞれのブランドイメージを明確にしたい」
複数サイト運営に伴うさまざまなニーズも、マルチドメインを活用すれば、低コストかつ効率的に実現できます。
そこでこの記事では、マルチドメインの基本から、具体的なメリット・デメリット、そして導入前に確認すべき重要ポイントまで、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。この記事を読めば、あなたのサイト運営を次のステージへ進める知識が身につくはずです。

目次
マルチドメインとは?複数サイト運用に役立つ仕組みを解説
マルチドメインとは、1つのサーバーにマルチ(複数)なドメイン(サイトの住所)を運用できる仕組みです。ここではまず、マルチドメインの仕組みを詳しく紹介します。
さらに、マルチドメイン以外にも存在する、複数ドメインの運用方法とそれらの違いについても見ていきましょう。複数のアカウントを運用するに際して、マルチドメインが適している場合と、ほかの方法を選ぶ方がよい場合があります。これを知れば、さまざまな選択肢の中から、ご自身のニーズに応じた仕組みを選べるようになるはずです。
- マルチドメインは1つのサーバーで複数ドメインを運用する仕組み
- マルチドメインとサブドメインや別サーバー運用との違い
それぞれ順に解説します。
マルチドメインは1つのサーバーで複数ドメインを運用する仕組み
マルチドメインには、主に次の特徴があります。
- サーバーの処理能力(リソース)を共有:1台のパソコンで複数のソフトを同時に動かすイメージ
- 1か所で集中管理:契約している全てのサイトの設定やファイルの管理を、1つの管理画面(コントロールパネル)で制御可能
- 1つのサーバー契約で、まったく別のドメインを複数管理可能
中でも最も特徴的であり大きなメリットをもたらすのが、1つのサーバー契約で、まったく別のドメインを複数管理できるという特徴です。
少しわかりにくいので、サーバーとドメインを、次のようにたとえてみましょう。
サーバー | サイトのデータを置く「土地」 |
---|---|
ドメイン | Webサイトの場所を示す「住所」 |
一般的に1つのWebサイトを作る時は、土地(サーバー)を1つ借りて、そこに住所(ドメイン)を1つ割り当てます。別のWebサイトを作りたい時は、新しい土地(サーバー)を契約し、そこに住所(ドメイン)を紐づけてWebサイトを運営するのが基本です。
しかしマルチドメインに対応するサーバーは、土地(サーバー)が広大です。その広大な土地(マルチドメインに対応するサーバー)に、異なる住所(ドメイン)を持つ家(Webサイト)を、何軒も建てられます。
たとえばマルチドメインに対応するサーバーなら、「example.com」というドメインを持ったWebショップのサイトと、「anothersite.net」というドメインの趣味のブログサイトを、同じ土地(サーバー)の中で同居させることが可能です。
マルチドメインとサブドメインや別サーバー運用との違い
マルチドメインは、複数のサイトを1つのサーバーで運用するための、便利な仕組みです。ただ複数サイトを運営する方法には、マルチドメインのほかに「サブドメイン」や「別サーバーでの運用」といった選択肢も存在します。
それぞれの違いを、見ていきましょう。
サブドメインとは
サブドメインは、メインのドメイン(親ドメイン)に対して、そこから分岐するドメインを紐づけたものを指します。
example.comというメインのドメイン(親ドメイン)があるとしましょう。この親ドメインに対して、文字列を追加して作成するのがサブドメインです(例:ネットショップのサイトはshop.・日々の出来事をつづるブログならblog.など)
これを、建物にたとえてみましょう。ある会社が、一棟全て賃貸する「〇〇ビル」という建物(親ドメイン)があります。このビルの中に、総務部や営業部の執務室や、管理職の部屋など、個別の居室(サブドメイン)があります。つまりサブドメインはあくまでも、親となるドメインの一部という扱いです。
こういった特性からサブドメインは、メインのブランドイメージを維持しつつ、目的別にコンテンツを分けたい場合に使用します。親ドメインで企業の公式ホームページを運用。サブドメインでは、就活サイトとして先輩社員がこの会社での日常を発信するブログや、自社の新商品を紹介する顧客向けサイトを運営する、といった形です。
これに対してマルチドメインの場合は、様相が異なります。
たとえばある企業が、サイト作成・人材派遣・雑貨の販売という、まったく異なるブランドや事業を展開しているとしましょう。それぞれのサイトを運営する場合には、マルチドメインが便利です。
この場合、サブドメインでは、いずれかのサイトにほかのサイトが紐づいてしまいます。しかしマルチドメインであれば、その懸念がありません。さらに、1つのサーバーで全てのサイトを管理できるので、スムーズに運用できます。
別サーバー運用とは
別サーバー運用はその名の通り、1つのサイトに対して1つのサーバーを契約する方法です。
シンプルでわかりやすいメリットがあります。ただし、サイトの数が増えるほど、サーバーの契約数が増えるのは、弱点でしょう。また契約したサーバーの数だけ運用コストがかかります。サイトごとに個別にサーバーの管理画面を開かなければならず、管理の負担が大きいのもデメリットです。
これに対してマルチドメインであれば、別サーバー運用の「サイトごとに独立している」という利点を活かしながら、サーバーのコストと管理の手間の一本化が可能です。複数の独立したサイトを運営したい方にとって、効率的な方法といえるでしょう。
マルチドメインで複数サイト運用をするメリット
マルチドメインを使いこなせば、あなたのサイト運営は今よりもずっと効率的で、戦略的なものになります。ここでは、次の4つのメリットを具体例とともに、詳しく解説します。
- 複数サイトをまとめて管理できるため運用作業が効率化する
- 複数ドメインの活用によって検索順位やSEO効果に好影響がある
- ドメインを分けることでブランドの役割や対象顧客を明確にできる
- サーバー契約を1つにすることで運用コストを抑えられる
それぞれ順に解説します。
複数サイトをまとめて管理できるため運用作業が効率化する
マルチドメインの最大のメリットは、複数サイトの管理にまつわるあらゆる手間を、劇的に削減できる点にあります。
たとえば、あなたが次の3つのサイトを、別々のサーバーで運営していると想像して見てください。「お店の公式サイト」「新商品のキャンペーンサイト」「個人的な趣味のブログ」の3つです。この場合あなたは、3社分のサーバー契約情報(ID、パスワード、料金プラン、更新日)を常に把握し、それぞれの管理画面に別々にログインして作業しなければなりません。
「Aサーバーのパスワードはどれだっけ?」
「Bサーバーの管理画面はほかとかなり使い方が違うから、面倒だな…」
「Cサーバーの更新時期がほかより早いから、支払いを忘れないようにしないと」
こういった管理の負担は、サイトが増えるほど重くのしかかります。
ではこれら3つのサーバー契約を、マルチドメインに移行するとどうなるでしょうか。
ログインする管理画面は、たった1つになります。それはまるで、家の鍵、車の鍵、倉庫の鍵をバラバラに持ち歩いていたものが、1本のマスターキーで全て開けられるようになるイメージです。1つの管理画面から、全サイトのファイル操作や設定変更ができます。請求もサーバー1台分に一本化されるため、経理上の処理も非常にシンプルです。
マルチドメインにすれば、あなたは面倒な管理作業から解放されます。節約できた時間と労力を、コンテンツ作成などの本質的な業務に投入すれば、ビジネスの大きな躍進も期待できるでしょう。
ところで、レンタルサーバーの管理画面はどんなことができるのか、と疑問に思うかもしれません。そこで初心者の方向けに、管理画面(コントロールパネル)では何ができるのかについて簡単に紹介します。
レンタルサーバーの管理画面はたとえるなら、「土地(サーバー)」を管理するための総合受付です。サイト運営に関わるほとんどの操作が、管理画面で完了します。管理画面でできる代表的な操作は、次の通りです。
- 新しい「住所(ドメイン)」を追加
- サイトのデータをアップロード
- WordPressなどのCMS(サイト作成ソフト)をインストール
- 独自ドメインのメールアドレスを作成
マルチドメインなら、サイト運営で発生するこれらの作業が全て、1か所で完了します。この利便性の高さは、マルチドメインだからこそ実現できる、大きなメリットです。
複数ドメインの活用によって検索順位やSEO効果に好影響がある
一見すると、無関係に思える複数のサイト。しかしマルチドメインでテーマごとに専門サイトを運営すると、SEO(検索エンジン最適化)において有利に働く可能性があります。
現在Googleなどの検索エンジンは、特定のテーマに深く特化した「専門性の高いサイト」を高く評価する傾向にあります。高い専門性のあるサイトこそが、ユーザーの求める答えを提供できると考えているためです。
たとえばある会社が「all-life-support.com」というサイトで、ペット用品・ベビー用品・介護用品という、3つの異なるジャンルの商品を販売していたとしましょう。さまざまなユーザーのニーズに対応する総合デパートのようなサイトと評価できる反面、各ジャンルの専門性は薄まります。これでは、検索エンジンからの評価も分散しがちです。
ここで、マルチドメインを導入。以下のように、サイトを分割する戦略に切り替えました。
サイト | URL |
---|---|
ペット用品・犬と猫の専門用品サイト | wan-nyan-life.com |
ベビー用品・赤ちゃん専門の用品サイト | baby-smile.jp |
介護用品・シニア向け介護用品サイト | senior-care-support.net |
その結果、各サイトがペット・赤ちゃん・介護という特定のテーマに特化した専門店となります。Googleからは「それぞれの分野における専門サイト」として認識されやすい状態になりました。
たとえば「ドッグフード 無添加」で検索したユーザーは、犬と猫の専門用品サイトに、「ベビーベッド レンタル」を探しているユーザーは、赤ちゃん専門の用品サイトに訪問できます。明確なニーズを持つ具体的なキーワードで検索したユーザーが、それぞれの専門サイトに到達できれば、満足度の向上が期待できます。この積み重ねは、各サイトの検索順位の上昇、さらに全体の売上アップの足がかりになるでしょう。
ドメインを分けることでブランドの役割や対象顧客を明確にできる
1つの企業が、ターゲットとなる顧客層が異なる複数の事業を展開するケースはよくあります。
そして目的が異なるサイトを運用する場合、先の例のようにドメインを分けることは、ブランド戦略における重要なポイントです。異なるドメインでサイトを運営すれば、ユーザーの混乱を防げるほか、それぞれのブランドイメージを明確に伝えられます。
たとえばある食品メーカーが、ターゲットが異なる、次の3つの情報発信をしたいと考えているとしましょう。
サイト | 目的 |
---|---|
企業の公式サイト | 取引先や株主、就職活動中の学生に向けた、IR情報や採用情報 |
レシピ情報サイト | 一般の主婦・主夫向け、自社製品を使った家庭料理レシピ情報 |
ギフト通販 | 高品質な贈答品を探している富裕層向け、高級ギフトセットの紹介 |
これらの情報を1つのサイトで表現すると、どうでしょうか。株主向けの堅い文章の隣に、お子さんが大好きなキャラ弁のレシピがあるかと思えば、高級ギフトセットの紹介もある。これではブランドイメージが曖昧で、どの顧客にも響かない中途半端なサイトになるでしょう。
そこで有効なのが、マルチドメインを使い、各サイトを完全に独立させる方法です。
サイト | デザイン |
---|---|
コーポレートサイト(food-company.co.jp) | 信頼感重視。誠実で落ち着いたデザイン |
レシピサイト(ouchi-gohan-recipe.jp) | 親しみやすさ重視。温かみのあるデザイン |
ギフト通販(premium-gift-food.com) | 高級感重視。ラグジュアリーなデザイン |
上記のようにドメインを分ければ、各サイトの役割が明確になり、それぞれのターゲット顧客に対して最適化されたメッセージとデザインを届けられます。またドメイン名自体がブランドの一部となるのも、メリットです。ユーザーは訪れた瞬間に「ここは自分向けのサイトだ」と直感的に理解できるでしょう。
サーバー契約を1つにすることで運用コストを抑えられる
マルチドメインを利用すれば、複数サイト運営にかかる金銭的な負担を軽減できます。
レンタルサーバーを契約すると、月額数百円から数千円の費用がかかるのが一般的です。仮に5つのサイトを運営するために、月額1,000円のサーバーを5つ契約すれば、サーバー費用だけで毎月5,000円、年間で60,000円のコストがかかります。
ここで、マルチドメイン対応のサーバープランを1つ契約するとどうなるでしょうか。サーバー費用は、1台分で済みます。少し性能のよい月額1,500円のプラン1つで、5つのサイト全ての運営が可能です。この場合、年間のサーバー費用は18,000円。月額1,000円のサーバーを5つ契約するのと比べると、年間42,000円ものコストを削減できます。
もちろんマルチドメインでは、複数のドメインが必要です。ドメイン自体の取得・更新費用(年間1,000円〜数千円程度)がドメインの数だけかかります。しかし、毎月発生するサーバー費用を1つにまとめられるインパクトは絶大です。
サーバーの複数契約からマルチドメインで一本化し、コスト削減できれば、その分の予算をコンテンツ制作や広告宣伝に充当できます。企業はもちろんのこと、個人で複数の趣味サイトを運営する際のハードルがグンと下がるのも、マルチドメインのメリットです。
マルチドメイン運用で想定されるリスク
ここまで、マルチドメインを選ぶことで期待できる多くのメリットを紹介しました。
しかしマルチドメインも、万能ではありません。便利な仕組みだからこそ、事前に知っておくべきリスクやデメリットも存在します。
「こんなはずじゃなかった…」と後悔しないために、念頭に置きたいのは、次の2つのリスクです。
- 1つのサーバー障害や負荷増加が全てのサイトに影響するリスクがある
- 設定や操作のミスが複数サイトに同時に影響する可能性がある
それぞれ順に解説します。
1つのサーバー障害や負荷増加が全てのサイトに影響するリスクがある
1つのサーバーで全てのサイトを運用するということはつまり、そのサーバーに何か問題が起きた場合、運営している全てのサイトが影響を受ける可能性があることを意味します。
これは、多くの世帯が入居するマンションにたとえると、わかりやすいでしょう。マンションの電気設備が故障して停電になった場合、全ての部屋で電気が使えなくなる可能性があります。建物という土台に問題が起きれば、全ての住民が影響を受ける事態は避けられません。
マルチドメインも、これと同じです。サーバーという「建物」でハードウェアの故障やネットワークの障害が発生すると、そこに入居している全てのサイト(部屋)が閲覧できなくなる、いわば共倒れのリスクを抱えています。
サーバーリソースを複数サイトで共有するため負荷に弱くなる
サーバー障害と並んで注意すべきなのが、特定のサイトへの負荷の増加です。これは、マルチドメインでは、契約した1台のサーバーが持つ性能(リソース)を全てのサイトで分け合って使うことに起因します。
ここで初心者向けに、サーバーリソースについて簡単に説明しましょう。
サーバーリソースとは、サーバーの性能を決める主要な要素です。主に「CPU」と「メモリ」を指します。
- CPU:サーバーの「頭脳」。処理速度を決める。
- メモリ:サーバーの「作業スペースの広さ」。一度にどれだけの作業をこなせるかを決める。
これらの性能には上限があるため、複数のサイトで分け合って使わなければなりません。
たとえばあなたが、A〜Eの5つのサイトを運営しているとしましょう。ある日サイトAがテレビやSNSで紹介されて、一時的にアクセスが爆発的に集中しました。この場合サイトAは、サーバーの「頭脳」と「作業机」のほとんどを占領します。
その結果、同じサーバーで同居している残りのサイトB、C、D、Eは、利用できるリソースが極端に低下。「表示が非常に遅くなる」「エラー画面が出てアクセスできなくなる」といった影響を受ける可能性があります。
サイトAの成功が、マルチドメインで運営するほかのサイトに悪影響を及ぼす可能性がある。これは、リソースを共有するマルチドメインならではの、重要な注意点です。
ただ「自分のサイトはアクセスが少ないから大丈夫」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしサーバーの負荷は、アクセス急増のほかにも、予期せぬ原因で上昇することがあります。
- プログラムの不具合:WordPressのプラグインなどのアップデートの失敗やほかのプログラムとの相性問題で、裏側で暴走するケース。
- 外部からの攻撃:サイトの乗っ取りなどを狙う、悪意のあるプログラム(ボット)による不正なアクセス。
- 重い処理の実行:サイトのバックアップやデータの一括更新といった、サーバーに大きな負荷をかける処理の実行。
このように、自分ではコントロールできない要因や、サイトの裏側で起きている問題が、同じサーバーにあるく無関係なサイトの運営に悪影響を及ぼす可能性があります。
設定や操作のミスが複数サイトに同時に影響する可能性がある
「複数サイトを1か所でまとめて管理できる」というマルチドメインのメリットは、裏を返すと「1か所でのミスが、全てのサイトに影響を及ぼす」リスクにもなり得ます。管理が集中している分、より慎重な操作が必要です。
これもマンションにたとえるなら、管理人が建物の「大元の水道管」を誤って閉めたようなもの。たった1つの操作ミスが、全ての部屋で水が出なくなるリスクにつながります。
設定や操作のミスとして、具体的には、以下のようなヒューマンエラーやセキュリティリスクが考えられます。
重要な設定ファイルの編集ミス
サーバー全体の動作を制御する重要な設定ファイルの「.htaccess」といった重要なファイルを誤って編集した場合、全てのサイトがエラーで見られなくなることも。
ファイルやフォルダの削除ミス
1つの管理画面から全てのサイトのファイルにアクセスできるため、「サイトAの不要な画像を消そうとしたら、間違えてサイトBの重要な画像フォルダを消してしまった」といった操作ミスが起こる可能性があります。
セキュリティの脆弱性
1つのサイトのセキュリティの甘さが、ほかの全てのサイトを危険にさらすリスクにつながります。たとえば、サイトAで使っているWordPressのプラグインに脆弱性があり、そこからハッカーに侵入されたとしましょう。すると、同じサーバーアカウント内にあるほかのサイトBやCのファイルも、改ざんやウイルスにさらされる危険性が高まります。
これらのリスクを避けるためには、サーバーを操作する際は細心の注意を払い、定期的に全てのサイトのバックアップを取ることが重要です。
マルチドメイン運用前に確認すべき重要ポイントを解説
便利でコスト削減にも貢献するマルチドメイン。その強みを最大化しながらリスクを最小化し、より効果的に活用するために、運用開始前に必ず確認したいのが、次の2点です。
- 適切なドメイン名の設計と管理体制を事前に整える必要がある
- 運用目的に合わせた構造とサーバーを事前に選定する必要がある
それぞれ順に解説します。
適切なドメイン名の設計と管理体制を事前に整える必要がある
一度取得したドメイン名(例:example.com)は、後から編集・変更できません。たとえば、exampre.comではなくexampre.jpに変更したい場合、exampre.jpに空きがあるか確認し、契約手続きする必要があります。また新しいドメインを取得し直した場合は、サイトの引っ越しという膨大な作業が必要です。
ドメイン名は、Webサイトの住所であり、顔として長く使うもの。追加するサイトの目的やブランドイメージに合った、かつユーザーにとってわかりやすく覚えやすいドメイン名を、慎重に選びましょう。
またサイトが増えると、管理するドメインが増えます。「どのドメインをいつまでに更新するのか」「誰が管理責任者なのか」といった管理体制を、事前に整えることが重要です。これを怠ると、ドメインの更新を忘れてしまい、ある日突然サイトが表示されなくなる、といった致命的なトラブルにつながる可能性があります。
運用目的に合わせた構造とサーバーを事前に選定する必要がある
「サイトを増やす」といっても、その目的によって最適なサイトの構造は異なります。マルチドメインが常に最善の選択とは限りません。状況に合わせて、ほかの選択肢も比較検討しましょう。
事業やブランドごとに分ける場合は別ドメインを使う
まったく異なる事業やブランドイメージのサイトを作る場合は、それぞれ独立したドメイン(example.comとanothersite.netなど)を取得しましょう。その上で、マルチドメインで運用するのが効果的です。
地域や言語で分ける場合は国別ドメインやサブドメインを使う
たとえば「日本向けサイト」と「アメリカ向けサイト」のように、地域や言語でコンテンツを分ける。こういった場合は、次の2つの方法が考えられます。
- 国別のドメインを使う:example.jp(日本)とexample.us(アメリカ)など
- サブドメインを使う:ja.example.com(日本語)とen.example.com(英語)など
同じブランドで複数サイトを作る場合はサブディレクトリを使う
同じブランドやサイト内でコンテンツを分ける場合、たとえば公式サイトexample.comの中にブログコーナーを作るなら、example.com/blog/というサブディレクトリ形式がSEOの観点からも推奨されます。
ただしこれは、マルチドメインとは異なる手法です。混同しないよう、ご注意ください。
安定運用には十分なリソースとセキュリティ機能を持つサーバーを選ぶ
マルチドメインの場合、1台のサーバーに負荷が集中しやすい弱点があります。そのため、契約するサーバーの性能(リソース)に余裕を持たせることが大切です。
特に将来的にサイト数が増えたり、アクセス数の増加が見込まれたりする場合は、上位のプランを選びましょう。また複数のサイトをサイバー攻撃から守るため、WAF(ウェブアプリケーションファイアウォール)などのセキュリティ機能が充実したサーバーを選ぶことが、安定運用のポイントです。
マルチドメインの主な活用方法を紹介
マルチドメインの仕組みは実際に、どのような場面で活躍するのでしょうか。ここでは、具体的な3つの活用シーンを例に挙げ、その効果とポイントを解説します。
- 異なるターゲット層や地域ごとにサイトを分けて運営する
- 事業ごとにドメインを分けてブランド戦略を強化する
- テスト用やキャンペーン用の専用サイトを運用する
それぞれ順に解説します。
異なるターゲット層や地域ごとにサイトを分けて運営する
顧客の属性や住んでいる地域によって、響くメッセージや求められる情報は大きく異なります。この時マルチドメインを使えば、それぞれのターゲットに最適化されたサイトの効率的な運営が可能です。
【活用例】あるアパレルブランドの場合
主に2つの顧客層をターゲットにするアパレルブランドを想定した、活用例です。ターゲットは、次の2つの層があります。
- 10代〜20代の若者:トレンドに敏感で、価格の手頃さを重視。SNSでの見栄えを気にする。
- 30代〜40代の大人:素材や品質を重視。落ち着いたデザインで、着回しのよさを求める。
ターゲットとなる2つの層に属する全てのユーザー向けの情報発信を1つのサイトで両立させようとすると、サイトのデザインやコンセプトが曖昧になるでしょう。これでは、どちらの層にも魅力が伝わりません。
そこでマルチドメインを活用し、以下のようにサイトを分割します。
- 若者向けサイト(tokimeki-fashion.com):明るくポップなデザイン。モデルには人気のインフルエンサーを起用し、SNS映えするコーディネート写真を多用。
- 大人向けサイト(premium-closet.jp):シックで洗練されたデザイン。素材のよさが伝わるような高品質な写真と、丁寧な商品説明を掲載。
このようにサイトを分けることで、それぞれのターゲット層は「ここは自分のためのブランドだ」と感じやすくなります。エンゲージメントや購買意欲を高める効果につながるでしょう。
年齢層ではなく、地域ごとに分ける場合も同様です。「東京の店舗情報サイト」と「大阪の店舗情報サイト」を別ドメインで運営すれば、各地域のユーザーに密着した情報を提供しやすくなります。
事業ごとにドメインを分けてブランド戦略を強化する
多くの企業は、複数の異なる事業を展開しています。それぞれの事業が持つ独自のブランドイメージを確立し、ユーザーの混乱を防ぐためにも、マルチドメインは有効な手段です。
【活用例】あるIT企業の場合
まったく性質の異なる2つのサービスを提供する企業を例に、見ていきましょう。
- 法人向けサービス:高度なセキュリティが求められる、企業の業務システム開発。
- 個人向けサービス:子供でも楽しめる、簡単なプログラミング学習アプリ。
これらを同じドメインで紹介すると、企業の専門性がわかりにくくなります。法人顧客は「子供向けアプリの会社に、重要なシステム開発を任せて大丈夫だろうか?」と不安に思うかもしれません。小さな子供を持つ保護者もまた、堅牢なセキュリティシステムのコンテンツを見た瞬間、プログラミング初心者向けのサービスではないと感じて、早々にサイトから離脱する可能性があります。
では、マルチドメインで事業ごとにサイトを完全に独立させるとどうなるでしょうか。
- 法人向けサイト(biz-system-solution.co.jp):信頼性や実績を前面に出した、堅実なデザイン。導入事例や技術的な解説を詳しく掲載。
- 個人向けサイト(wakuwaku-programming.jp):親しみやすさや楽しさを強調した、カラフルで動きのあるデザイン。キャラクターを使い、ゲーム感覚で学べる点をアピール。
ドメインを分けることで、それぞれの事業が持つ専門性とブランドイメージが明確になり、ターゲット顧客に対して的確なアプローチが可能になります。これはSEOの観点からも、「専門性の高いサイト」として評価されやすくなるために意識したいポイントです。
テスト用やキャンペーン用の専用サイトを運用する
既存の公式サイトとは別に、期間限定のサイトや、新しい試みを行うためのサイトを手軽に立ち上げられるのも、マルチドメインの大きな魅力です。
【活用例】ある飲料メーカーの場合
夏限定の新商品の発売に合わせて、大規模なプレゼントキャンペーンを実施するメーカーの例を想定してみましょう。公式サイト内で告知するだけではインパクトが弱いため、キャンペーン専用の特設サイトを立ち上げます。
- 公式サイト(drink-maker.co.jp)
- キャンペーンサイト(summer-special-2025.com)
マルチドメインを使えば、サーバーを新規に契約する手間なく、思い立ったらすぐにキャンペーンサイト用のドメインを追加して公開できます。サイトのデザインも、商品のイメージに合わせて普段の公式サイトとはまったく違う、夏らしくてインパクトのあるものにするのもよいでしょう。
またWebサイトの全面リニューアルを検討している際に、現在のサイトは運営しつつ、別のドメインで新しいデザインのテストサイトを立ち上げ、関係者だけで閲覧・確認するといった使い方もできます。コストを抑えながら、柔軟でスピーディーなサイト展開ができるのは、マルチドメインならではの強みです。

ABLENET
運営者情報
ABLENET®は株式会社ケイアンドケイコーポレーションが提供するホスティングサービスです。レンタルサーバー(共用サーバー)、VPS(仮想サーバー)、GPUサーバーを提供しています。
マルチドメインとは?複数サイト運用に適した仕組みとメリット・デメリット

マルチドメインとは、複数のサイト(ドメイン)を、1つのレンタルサーバーで運用できる仕組みのことです。
「自社ホームページとは別に、新サービス用のサイトを立ち上げたい」
「展開している複数の異なる事業について、サイトを分けて、それぞれのブランドイメージを明確にしたい」
複数サイト運営に伴うさまざまなニーズも、マルチドメインを活用すれば、低コストかつ効率的に実現できます。
そこでこの記事では、マルチドメインの基本から、具体的なメリット・デメリット、そして導入前に確認すべき重要ポイントまで、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。この記事を読めば、あなたのサイト運営を次のステージへ進める知識が身につくはずです。

目次
マルチドメインとは?複数サイト運用に役立つ仕組みを解説
マルチドメインとは、1つのサーバーにマルチ(複数)なドメイン(サイトの住所)を運用できる仕組みです。ここではまず、マルチドメインの仕組みを詳しく紹介します。
さらに、マルチドメイン以外にも存在する、複数ドメインの運用方法とそれらの違いについても見ていきましょう。複数のアカウントを運用するに際して、マルチドメインが適している場合と、ほかの方法を選ぶ方がよい場合があります。これを知れば、さまざまな選択肢の中から、ご自身のニーズに応じた仕組みを選べるようになるはずです。
- マルチドメインは1つのサーバーで複数ドメインを運用する仕組み
- マルチドメインとサブドメインや別サーバー運用との違い
それぞれ順に解説します。
マルチドメインは1つのサーバーで複数ドメインを運用する仕組み
マルチドメインには、主に次の特徴があります。
- サーバーの処理能力(リソース)を共有:1台のパソコンで複数のソフトを同時に動かすイメージ
- 1か所で集中管理:契約している全てのサイトの設定やファイルの管理を、1つの管理画面(コントロールパネル)で制御可能
- 1つのサーバー契約で、まったく別のドメインを複数管理可能
中でも最も特徴的であり大きなメリットをもたらすのが、1つのサーバー契約で、まったく別のドメインを複数管理できるという特徴です。
少しわかりにくいので、サーバーとドメインを、次のようにたとえてみましょう。
サーバー | サイトのデータを置く「土地」 |
---|---|
ドメイン | Webサイトの場所を示す「住所」 |
一般的に1つのWebサイトを作る時は、土地(サーバー)を1つ借りて、そこに住所(ドメイン)を1つ割り当てます。別のWebサイトを作りたい時は、新しい土地(サーバー)を契約し、そこに住所(ドメイン)を紐づけてWebサイトを運営するのが基本です。
しかしマルチドメインに対応するサーバーは、土地(サーバー)が広大です。その広大な土地(マルチドメインに対応するサーバー)に、異なる住所(ドメイン)を持つ家(Webサイト)を、何軒も建てられます。
たとえばマルチドメインに対応するサーバーなら、「example.com」というドメインを持ったWebショップのサイトと、「anothersite.net」というドメインの趣味のブログサイトを、同じ土地(サーバー)の中で同居させることが可能です。
マルチドメインとサブドメインや別サーバー運用との違い
マルチドメインは、複数のサイトを1つのサーバーで運用するための、便利な仕組みです。ただ複数サイトを運営する方法には、マルチドメインのほかに「サブドメイン」や「別サーバーでの運用」といった選択肢も存在します。
それぞれの違いを、見ていきましょう。
サブドメインとは
サブドメインは、メインのドメイン(親ドメイン)に対して、そこから分岐するドメインを紐づけたものを指します。
example.comというメインのドメイン(親ドメイン)があるとしましょう。この親ドメインに対して、文字列を追加して作成するのがサブドメインです(例:ネットショップのサイトはshop.・日々の出来事をつづるブログならblog.など)
これを、建物にたとえてみましょう。ある会社が、一棟全て賃貸する「〇〇ビル」という建物(親ドメイン)があります。このビルの中に、総務部や営業部の執務室や、管理職の部屋など、個別の居室(サブドメイン)があります。つまりサブドメインはあくまでも、親となるドメインの一部という扱いです。
こういった特性からサブドメインは、メインのブランドイメージを維持しつつ、目的別にコンテンツを分けたい場合に使用します。親ドメインで企業の公式ホームページを運用。サブドメインでは、就活サイトとして先輩社員がこの会社での日常を発信するブログや、自社の新商品を紹介する顧客向けサイトを運営する、といった形です。
これに対してマルチドメインの場合は、様相が異なります。
たとえばある企業が、サイト作成・人材派遣・雑貨の販売という、まったく異なるブランドや事業を展開しているとしましょう。それぞれのサイトを運営する場合には、マルチドメインが便利です。
この場合、サブドメインでは、いずれかのサイトにほかのサイトが紐づいてしまいます。しかしマルチドメインであれば、その懸念がありません。さらに、1つのサーバーで全てのサイトを管理できるので、スムーズに運用できます。
別サーバー運用とは
別サーバー運用はその名の通り、1つのサイトに対して1つのサーバーを契約する方法です。
シンプルでわかりやすいメリットがあります。ただし、サイトの数が増えるほど、サーバーの契約数が増えるのは、弱点でしょう。また契約したサーバーの数だけ運用コストがかかります。サイトごとに個別にサーバーの管理画面を開かなければならず、管理の負担が大きいのもデメリットです。
これに対してマルチドメインであれば、別サーバー運用の「サイトごとに独立している」という利点を活かしながら、サーバーのコストと管理の手間の一本化が可能です。複数の独立したサイトを運営したい方にとって、効率的な方法といえるでしょう。
マルチドメインで複数サイト運用をするメリット
マルチドメインを使いこなせば、あなたのサイト運営は今よりもずっと効率的で、戦略的なものになります。ここでは、次の4つのメリットを具体例とともに、詳しく解説します。
- 複数サイトをまとめて管理できるため運用作業が効率化する
- 複数ドメインの活用によって検索順位やSEO効果に好影響がある
- ドメインを分けることでブランドの役割や対象顧客を明確にできる
- サーバー契約を1つにすることで運用コストを抑えられる
それぞれ順に解説します。
複数サイトをまとめて管理できるため運用作業が効率化する
マルチドメインの最大のメリットは、複数サイトの管理にまつわるあらゆる手間を、劇的に削減できる点にあります。
たとえば、あなたが次の3つのサイトを、別々のサーバーで運営していると想像して見てください。「お店の公式サイト」「新商品のキャンペーンサイト」「個人的な趣味のブログ」の3つです。この場合あなたは、3社分のサーバー契約情報(ID、パスワード、料金プラン、更新日)を常に把握し、それぞれの管理画面に別々にログインして作業しなければなりません。
「Aサーバーのパスワードはどれだっけ?」
「Bサーバーの管理画面はほかとかなり使い方が違うから、面倒だな…」
「Cサーバーの更新時期がほかより早いから、支払いを忘れないようにしないと」
こういった管理の負担は、サイトが増えるほど重くのしかかります。
ではこれら3つのサーバー契約を、マルチドメインに移行するとどうなるでしょうか。
ログインする管理画面は、たった1つになります。それはまるで、家の鍵、車の鍵、倉庫の鍵をバラバラに持ち歩いていたものが、1本のマスターキーで全て開けられるようになるイメージです。1つの管理画面から、全サイトのファイル操作や設定変更ができます。請求もサーバー1台分に一本化されるため、経理上の処理も非常にシンプルです。
マルチドメインにすれば、あなたは面倒な管理作業から解放されます。節約できた時間と労力を、コンテンツ作成などの本質的な業務に投入すれば、ビジネスの大きな躍進も期待できるでしょう。
ところで、レンタルサーバーの管理画面はどんなことができるのか、と疑問に思うかもしれません。そこで初心者の方向けに、管理画面(コントロールパネル)では何ができるのかについて簡単に紹介します。
レンタルサーバーの管理画面はたとえるなら、「土地(サーバー)」を管理するための総合受付です。サイト運営に関わるほとんどの操作が、管理画面で完了します。管理画面でできる代表的な操作は、次の通りです。
- 新しい「住所(ドメイン)」を追加
- サイトのデータをアップロード
- WordPressなどのCMS(サイト作成ソフト)をインストール
- 独自ドメインのメールアドレスを作成
マルチドメインなら、サイト運営で発生するこれらの作業が全て、1か所で完了します。この利便性の高さは、マルチドメインだからこそ実現できる、大きなメリットです。
複数ドメインの活用によって検索順位やSEO効果に好影響がある
一見すると、無関係に思える複数のサイト。しかしマルチドメインでテーマごとに専門サイトを運営すると、SEO(検索エンジン最適化)において有利に働く可能性があります。
現在Googleなどの検索エンジンは、特定のテーマに深く特化した「専門性の高いサイト」を高く評価する傾向にあります。高い専門性のあるサイトこそが、ユーザーの求める答えを提供できると考えているためです。
たとえばある会社が「all-life-support.com」というサイトで、ペット用品・ベビー用品・介護用品という、3つの異なるジャンルの商品を販売していたとしましょう。さまざまなユーザーのニーズに対応する総合デパートのようなサイトと評価できる反面、各ジャンルの専門性は薄まります。これでは、検索エンジンからの評価も分散しがちです。
ここで、マルチドメインを導入。以下のように、サイトを分割する戦略に切り替えました。
サイト | URL |
---|---|
ペット用品・犬と猫の専門用品サイト | wan-nyan-life.com |
ベビー用品・赤ちゃん専門の用品サイト | baby-smile.jp |
介護用品・シニア向け介護用品サイト | senior-care-support.net |
その結果、各サイトがペット・赤ちゃん・介護という特定のテーマに特化した専門店となります。Googleからは「それぞれの分野における専門サイト」として認識されやすい状態になりました。
たとえば「ドッグフード 無添加」で検索したユーザーは、犬と猫の専門用品サイトに、「ベビーベッド レンタル」を探しているユーザーは、赤ちゃん専門の用品サイトに訪問できます。明確なニーズを持つ具体的なキーワードで検索したユーザーが、それぞれの専門サイトに到達できれば、満足度の向上が期待できます。この積み重ねは、各サイトの検索順位の上昇、さらに全体の売上アップの足がかりになるでしょう。
ドメインを分けることでブランドの役割や対象顧客を明確にできる
1つの企業が、ターゲットとなる顧客層が異なる複数の事業を展開するケースはよくあります。
そして目的が異なるサイトを運用する場合、先の例のようにドメインを分けることは、ブランド戦略における重要なポイントです。異なるドメインでサイトを運営すれば、ユーザーの混乱を防げるほか、それぞれのブランドイメージを明確に伝えられます。
たとえばある食品メーカーが、ターゲットが異なる、次の3つの情報発信をしたいと考えているとしましょう。
サイト | 目的 |
---|---|
企業の公式サイト | 取引先や株主、就職活動中の学生に向けた、IR情報や採用情報 |
レシピ情報サイト | 一般の主婦・主夫向け、自社製品を使った家庭料理レシピ情報 |
ギフト通販 | 高品質な贈答品を探している富裕層向け、高級ギフトセットの紹介 |
これらの情報を1つのサイトで表現すると、どうでしょうか。株主向けの堅い文章の隣に、お子さんが大好きなキャラ弁のレシピがあるかと思えば、高級ギフトセットの紹介もある。これではブランドイメージが曖昧で、どの顧客にも響かない中途半端なサイトになるでしょう。
そこで有効なのが、マルチドメインを使い、各サイトを完全に独立させる方法です。
サイト | デザイン |
---|---|
コーポレートサイト(food-company.co.jp) | 信頼感重視。誠実で落ち着いたデザイン |
レシピサイト(ouchi-gohan-recipe.jp) | 親しみやすさ重視。温かみのあるデザイン |
ギフト通販(premium-gift-food.com) | 高級感重視。ラグジュアリーなデザイン |
上記のようにドメインを分ければ、各サイトの役割が明確になり、それぞれのターゲット顧客に対して最適化されたメッセージとデザインを届けられます。またドメイン名自体がブランドの一部となるのも、メリットです。ユーザーは訪れた瞬間に「ここは自分向けのサイトだ」と直感的に理解できるでしょう。
サーバー契約を1つにすることで運用コストを抑えられる
マルチドメインを利用すれば、複数サイト運営にかかる金銭的な負担を軽減できます。
レンタルサーバーを契約すると、月額数百円から数千円の費用がかかるのが一般的です。仮に5つのサイトを運営するために、月額1,000円のサーバーを5つ契約すれば、サーバー費用だけで毎月5,000円、年間で60,000円のコストがかかります。
ここで、マルチドメイン対応のサーバープランを1つ契約するとどうなるでしょうか。サーバー費用は、1台分で済みます。少し性能のよい月額1,500円のプラン1つで、5つのサイト全ての運営が可能です。この場合、年間のサーバー費用は18,000円。月額1,000円のサーバーを5つ契約するのと比べると、年間42,000円ものコストを削減できます。
もちろんマルチドメインでは、複数のドメインが必要です。ドメイン自体の取得・更新費用(年間1,000円〜数千円程度)がドメインの数だけかかります。しかし、毎月発生するサーバー費用を1つにまとめられるインパクトは絶大です。
サーバーの複数契約からマルチドメインで一本化し、コスト削減できれば、その分の予算をコンテンツ制作や広告宣伝に充当できます。企業はもちろんのこと、個人で複数の趣味サイトを運営する際のハードルがグンと下がるのも、マルチドメインのメリットです。
マルチドメイン運用で想定されるリスク
ここまで、マルチドメインを選ぶことで期待できる多くのメリットを紹介しました。
しかしマルチドメインも、万能ではありません。便利な仕組みだからこそ、事前に知っておくべきリスクやデメリットも存在します。
「こんなはずじゃなかった…」と後悔しないために、念頭に置きたいのは、次の2つのリスクです。
- 1つのサーバー障害や負荷増加が全てのサイトに影響するリスクがある
- 設定や操作のミスが複数サイトに同時に影響する可能性がある
それぞれ順に解説します。
1つのサーバー障害や負荷増加が全てのサイトに影響するリスクがある
1つのサーバーで全てのサイトを運用するということはつまり、そのサーバーに何か問題が起きた場合、運営している全てのサイトが影響を受ける可能性があることを意味します。
これは、多くの世帯が入居するマンションにたとえると、わかりやすいでしょう。マンションの電気設備が故障して停電になった場合、全ての部屋で電気が使えなくなる可能性があります。建物という土台に問題が起きれば、全ての住民が影響を受ける事態は避けられません。
マルチドメインも、これと同じです。サーバーという「建物」でハードウェアの故障やネットワークの障害が発生すると、そこに入居している全てのサイト(部屋)が閲覧できなくなる、いわば共倒れのリスクを抱えています。
サーバーリソースを複数サイトで共有するため負荷に弱くなる
サーバー障害と並んで注意すべきなのが、特定のサイトへの負荷の増加です。これは、マルチドメインでは、契約した1台のサーバーが持つ性能(リソース)を全てのサイトで分け合って使うことに起因します。
ここで初心者向けに、サーバーリソースについて簡単に説明しましょう。
サーバーリソースとは、サーバーの性能を決める主要な要素です。主に「CPU」と「メモリ」を指します。
- CPU:サーバーの「頭脳」。処理速度を決める。
- メモリ:サーバーの「作業スペースの広さ」。一度にどれだけの作業をこなせるかを決める。
これらの性能には上限があるため、複数のサイトで分け合って使わなければなりません。
たとえばあなたが、A〜Eの5つのサイトを運営しているとしましょう。ある日サイトAがテレビやSNSで紹介されて、一時的にアクセスが爆発的に集中しました。この場合サイトAは、サーバーの「頭脳」と「作業机」のほとんどを占領します。
その結果、同じサーバーで同居している残りのサイトB、C、D、Eは、利用できるリソースが極端に低下。「表示が非常に遅くなる」「エラー画面が出てアクセスできなくなる」といった影響を受ける可能性があります。
サイトAの成功が、マルチドメインで運営するほかのサイトに悪影響を及ぼす可能性がある。これは、リソースを共有するマルチドメインならではの、重要な注意点です。
ただ「自分のサイトはアクセスが少ないから大丈夫」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしサーバーの負荷は、アクセス急増のほかにも、予期せぬ原因で上昇することがあります。
- プログラムの不具合:WordPressのプラグインなどのアップデートの失敗やほかのプログラムとの相性問題で、裏側で暴走するケース。
- 外部からの攻撃:サイトの乗っ取りなどを狙う、悪意のあるプログラム(ボット)による不正なアクセス。
- 重い処理の実行:サイトのバックアップやデータの一括更新といった、サーバーに大きな負荷をかける処理の実行。
このように、自分ではコントロールできない要因や、サイトの裏側で起きている問題が、同じサーバーにあるく無関係なサイトの運営に悪影響を及ぼす可能性があります。
設定や操作のミスが複数サイトに同時に影響する可能性がある
「複数サイトを1か所でまとめて管理できる」というマルチドメインのメリットは、裏を返すと「1か所でのミスが、全てのサイトに影響を及ぼす」リスクにもなり得ます。管理が集中している分、より慎重な操作が必要です。
これもマンションにたとえるなら、管理人が建物の「大元の水道管」を誤って閉めたようなもの。たった1つの操作ミスが、全ての部屋で水が出なくなるリスクにつながります。
設定や操作のミスとして、具体的には、以下のようなヒューマンエラーやセキュリティリスクが考えられます。
重要な設定ファイルの編集ミス
サーバー全体の動作を制御する重要な設定ファイルの「.htaccess」といった重要なファイルを誤って編集した場合、全てのサイトがエラーで見られなくなることも。
ファイルやフォルダの削除ミス
1つの管理画面から全てのサイトのファイルにアクセスできるため、「サイトAの不要な画像を消そうとしたら、間違えてサイトBの重要な画像フォルダを消してしまった」といった操作ミスが起こる可能性があります。
セキュリティの脆弱性
1つのサイトのセキュリティの甘さが、ほかの全てのサイトを危険にさらすリスクにつながります。たとえば、サイトAで使っているWordPressのプラグインに脆弱性があり、そこからハッカーに侵入されたとしましょう。すると、同じサーバーアカウント内にあるほかのサイトBやCのファイルも、改ざんやウイルスにさらされる危険性が高まります。
これらのリスクを避けるためには、サーバーを操作する際は細心の注意を払い、定期的に全てのサイトのバックアップを取ることが重要です。
マルチドメイン運用前に確認すべき重要ポイントを解説
便利でコスト削減にも貢献するマルチドメイン。その強みを最大化しながらリスクを最小化し、より効果的に活用するために、運用開始前に必ず確認したいのが、次の2点です。
- 適切なドメイン名の設計と管理体制を事前に整える必要がある
- 運用目的に合わせた構造とサーバーを事前に選定する必要がある
それぞれ順に解説します。
適切なドメイン名の設計と管理体制を事前に整える必要がある
一度取得したドメイン名(例:example.com)は、後から編集・変更できません。たとえば、exampre.comではなくexampre.jpに変更したい場合、exampre.jpに空きがあるか確認し、契約手続きする必要があります。また新しいドメインを取得し直した場合は、サイトの引っ越しという膨大な作業が必要です。
ドメイン名は、Webサイトの住所であり、顔として長く使うもの。追加するサイトの目的やブランドイメージに合った、かつユーザーにとってわかりやすく覚えやすいドメイン名を、慎重に選びましょう。
またサイトが増えると、管理するドメインが増えます。「どのドメインをいつまでに更新するのか」「誰が管理責任者なのか」といった管理体制を、事前に整えることが重要です。これを怠ると、ドメインの更新を忘れてしまい、ある日突然サイトが表示されなくなる、といった致命的なトラブルにつながる可能性があります。
運用目的に合わせた構造とサーバーを事前に選定する必要がある
「サイトを増やす」といっても、その目的によって最適なサイトの構造は異なります。マルチドメインが常に最善の選択とは限りません。状況に合わせて、ほかの選択肢も比較検討しましょう。
事業やブランドごとに分ける場合は別ドメインを使う
まったく異なる事業やブランドイメージのサイトを作る場合は、それぞれ独立したドメイン(example.comとanothersite.netなど)を取得しましょう。その上で、マルチドメインで運用するのが効果的です。
地域や言語で分ける場合は国別ドメインやサブドメインを使う
たとえば「日本向けサイト」と「アメリカ向けサイト」のように、地域や言語でコンテンツを分ける。こういった場合は、次の2つの方法が考えられます。
- 国別のドメインを使う:example.jp(日本)とexample.us(アメリカ)など
- サブドメインを使う:ja.example.com(日本語)とen.example.com(英語)など
同じブランドで複数サイトを作る場合はサブディレクトリを使う
同じブランドやサイト内でコンテンツを分ける場合、たとえば公式サイトexample.comの中にブログコーナーを作るなら、example.com/blog/というサブディレクトリ形式がSEOの観点からも推奨されます。
ただしこれは、マルチドメインとは異なる手法です。混同しないよう、ご注意ください。
安定運用には十分なリソースとセキュリティ機能を持つサーバーを選ぶ
マルチドメインの場合、1台のサーバーに負荷が集中しやすい弱点があります。そのため、契約するサーバーの性能(リソース)に余裕を持たせることが大切です。
特に将来的にサイト数が増えたり、アクセス数の増加が見込まれたりする場合は、上位のプランを選びましょう。また複数のサイトをサイバー攻撃から守るため、WAF(ウェブアプリケーションファイアウォール)などのセキュリティ機能が充実したサーバーを選ぶことが、安定運用のポイントです。
マルチドメインの主な活用方法を紹介
マルチドメインの仕組みは実際に、どのような場面で活躍するのでしょうか。ここでは、具体的な3つの活用シーンを例に挙げ、その効果とポイントを解説します。
- 異なるターゲット層や地域ごとにサイトを分けて運営する
- 事業ごとにドメインを分けてブランド戦略を強化する
- テスト用やキャンペーン用の専用サイトを運用する
それぞれ順に解説します。
異なるターゲット層や地域ごとにサイトを分けて運営する
顧客の属性や住んでいる地域によって、響くメッセージや求められる情報は大きく異なります。この時マルチドメインを使えば、それぞれのターゲットに最適化されたサイトの効率的な運営が可能です。
【活用例】あるアパレルブランドの場合
主に2つの顧客層をターゲットにするアパレルブランドを想定した、活用例です。ターゲットは、次の2つの層があります。
- 10代〜20代の若者:トレンドに敏感で、価格の手頃さを重視。SNSでの見栄えを気にする。
- 30代〜40代の大人:素材や品質を重視。落ち着いたデザインで、着回しのよさを求める。
ターゲットとなる2つの層に属する全てのユーザー向けの情報発信を1つのサイトで両立させようとすると、サイトのデザインやコンセプトが曖昧になるでしょう。これでは、どちらの層にも魅力が伝わりません。
そこでマルチドメインを活用し、以下のようにサイトを分割します。
- 若者向けサイト(tokimeki-fashion.com):明るくポップなデザイン。モデルには人気のインフルエンサーを起用し、SNS映えするコーディネート写真を多用。
- 大人向けサイト(premium-closet.jp):シックで洗練されたデザイン。素材のよさが伝わるような高品質な写真と、丁寧な商品説明を掲載。
このようにサイトを分けることで、それぞれのターゲット層は「ここは自分のためのブランドだ」と感じやすくなります。エンゲージメントや購買意欲を高める効果につながるでしょう。
年齢層ではなく、地域ごとに分ける場合も同様です。「東京の店舗情報サイト」と「大阪の店舗情報サイト」を別ドメインで運営すれば、各地域のユーザーに密着した情報を提供しやすくなります。
事業ごとにドメインを分けてブランド戦略を強化する
多くの企業は、複数の異なる事業を展開しています。それぞれの事業が持つ独自のブランドイメージを確立し、ユーザーの混乱を防ぐためにも、マルチドメインは有効な手段です。
【活用例】あるIT企業の場合
まったく性質の異なる2つのサービスを提供する企業を例に、見ていきましょう。
- 法人向けサービス:高度なセキュリティが求められる、企業の業務システム開発。
- 個人向けサービス:子供でも楽しめる、簡単なプログラミング学習アプリ。
これらを同じドメインで紹介すると、企業の専門性がわかりにくくなります。法人顧客は「子供向けアプリの会社に、重要なシステム開発を任せて大丈夫だろうか?」と不安に思うかもしれません。小さな子供を持つ保護者もまた、堅牢なセキュリティシステムのコンテンツを見た瞬間、プログラミング初心者向けのサービスではないと感じて、早々にサイトから離脱する可能性があります。
では、マルチドメインで事業ごとにサイトを完全に独立させるとどうなるでしょうか。
- 法人向けサイト(biz-system-solution.co.jp):信頼性や実績を前面に出した、堅実なデザイン。導入事例や技術的な解説を詳しく掲載。
- 個人向けサイト(wakuwaku-programming.jp):親しみやすさや楽しさを強調した、カラフルで動きのあるデザイン。キャラクターを使い、ゲーム感覚で学べる点をアピール。
ドメインを分けることで、それぞれの事業が持つ専門性とブランドイメージが明確になり、ターゲット顧客に対して的確なアプローチが可能になります。これはSEOの観点からも、「専門性の高いサイト」として評価されやすくなるために意識したいポイントです。
テスト用やキャンペーン用の専用サイトを運用する
既存の公式サイトとは別に、期間限定のサイトや、新しい試みを行うためのサイトを手軽に立ち上げられるのも、マルチドメインの大きな魅力です。
【活用例】ある飲料メーカーの場合
夏限定の新商品の発売に合わせて、大規模なプレゼントキャンペーンを実施するメーカーの例を想定してみましょう。公式サイト内で告知するだけではインパクトが弱いため、キャンペーン専用の特設サイトを立ち上げます。
- 公式サイト(drink-maker.co.jp)
- キャンペーンサイト(summer-special-2025.com)
マルチドメインを使えば、サーバーを新規に契約する手間なく、思い立ったらすぐにキャンペーンサイト用のドメインを追加して公開できます。サイトのデザインも、商品のイメージに合わせて普段の公式サイトとはまったく違う、夏らしくてインパクトのあるものにするのもよいでしょう。
またWebサイトの全面リニューアルを検討している際に、現在のサイトは運営しつつ、別のドメインで新しいデザインのテストサイトを立ち上げ、関係者だけで閲覧・確認するといった使い方もできます。コストを抑えながら、柔軟でスピーディーなサイト展開ができるのは、マルチドメインならではの強みです。